政治が決断すべきエネルギー政策について
玉井質問

 二律背反とは、2つの相反する命題や推論が同じだけの合理性、妥当性を持っていること、また、自己矛盾に陥ることと辞書に書かれております。
 5月11日から18日までの間、先輩・同僚議員とともに訪問させていただいたドイツ連邦共和国とフランス共和国。隣国でありながらも、2022年までに国内全ての原子力発電所を停止する脱原子力や、太陽光発電設備容量世界一に代表される再生可能エネルギーの普及、そして、環境税の導入と同時に社会保険料の減額により、企業の雇用を維持・促進しながら環境保全を進める環境税政策の推進を掲げるドイツ。一方、フランスにおいては、2025年までに原子力発電比率を75%から50%へと低減は目指すものの、原子力発電所の建設継続や原子力燃料サイクルの維持、原子炉の輸出推進など、異なるエネルギー政策を推し進めるとしています。
 国内においても、また、2国間においても、二律背反の言葉が当てはまるエネルギー事情ではなかったかと今をもって感ずるところです。
 ドイツでは、1960年代ごろから、工業化の進展に伴って、酸性雨による自然への影響が顕著となり、それに並行して、自然保護や反原子力、女性の権利など、新しい争点の定着に成功した緑の党が政治的に強くなり、反原発の姿勢を打ち出していったようです。
 また、国が豊かになるにつれ、産業社会に対抗する人間と自然との共生型の社会を目指す生活様式、思想、運動などの二者選択的思想は、エコステーションにおける幼児を対象とした環境教育や、パーク・アンド・ライドの普及促進によるトラムなどの公共交通機関の整備、パッシブハウスと呼ばれる無暖房住宅などに代表される環境政策に見られ、次世代にしわ寄せしない、今、生きている社会に責任を持つ。これらが原子力をやめて再生可能エネルギーで賄っていくとするドイツ国民の意思であり、決意なのかなと強く感じたところです。
 しかしながら、ここに二律背反が……。順調に再生可能エネルギーの普及拡大が進む一方で、石炭火力発電3.4%、褐炭火力発電5.1%と発電量が伸び、温室効果ガスの排出量は結果として2012年には前年比1.6%増となり、京都議定書のフィロソフィーに反することになっているのです。
 一方、フランスでは、1960年代から、環境に優しい先進的な技術として、原子力発電への投資を推進しています。原子力発電はベース電源と位置づけられ、国民の支持を得てきているのです。
 視察先であったフランス電力会社EDF社担当者の印象的な言葉として、フランス国民は何も原子力に恋しているわけではない。エネルギーの独自性、供給の安全性、安価な電気料金というものがあるから、原子力がよいと思っているのであって、リスクが高いことも十分理解した上での支持であり、現実と理想をはっきり分けているのだと。
 このことは、何より投資を惜しまない安全性の追求をベースに、緊急時において迅速に対応可能な態勢を整備しておくなど、安全性や環境問題に関する国民の不安に対し、EDF社が日常的に真摯な対応をしていることから醸成された信頼感や安心感だと思ったのです。
 我が国のエネルギー政策に目を転じますと、本年4月、第4次となるエネルギー基本計画が閣議決定されました。東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故により、エネルギー政策を取り巻く環境は、大規模な調整とともに、これらの変化に対応すべく、中長期のエネルギー需給構造を視野に入れながら、今後、取り組むべき政策課題と長期的、総合的かつ計画的なエネルギー政策の方針がまとめられています。
 本県においては、低炭素の国産エネルギーを推進する施策として、家庭用燃料電池の導入促進や太陽光発電以外の再生可能エネルギー発電導入の可能性調査への助成など、新たな事業を加え、積極的に取り組んでおられます。
 一方、重要なベースロード電源と位置づけられた原子力発電所の再稼働に当たっては、安全性の確保を大前提に、国の考え方、事業者の取り組み姿勢、地元の理解の3点を総合的に判断するとの考えが示されています。
 そこで、お伺いいたします。
 トップランナーである九州電力川内原子力発電所が原子力規制委員会の審査に合格しましたが、最終的に再稼働の判断に国がどのようにかかわるのか、具体的な手続が依然として曖昧なままであります。自治体が作成する避難計画の指導も含め、判断に至った経緯や結果について、国が前面に立って対応しなければ、電源立地地域の皆様の理解は得られないのではないかと私は考えます。
 エネルギー政策をつかさどる国の説明責任や決断について、どうあるべきと考えられているのか、知事の御所見をお聞かせ願いたいのであります。



理事者答弁(中村時広知事)

 エネルギー資源が乏しく、周囲を海に囲まれた我が国にとって、エネルギー政策は国の命運を左右する重要事項であり、安定かつ安価な供給やエネルギー安全保障、地球温暖化など、さまざまな視点から、原発を含め、全てのエネルギー源について予断を持たずに総合的に検討し、国が責任を持って、我が国に最も適したエネルギーのベストミックスを追求する必要があると思います。
 ことし4月に閣議決定されたエネルギー基本計画では、原子力発電について、将来的には依存度を可能な限り低減させるとともに、規制基準に適合すると認められた原発は再稼働を進めること、その際には、国も前面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう取り組むことが明記されてはいるものの、具体的な手続や電源構成の数値目標等はいまだ明確にされていない状況にあります。
 原発の再稼働については、何よりも安全性の確保が大前提であり、原子力規制委員会による新基準適合性審査の最終判断がなされた場合には、科学的・技術的な根拠等についてわかりやすく丁寧に説明をいただくとともに、エネルギー政策をつかさどる国として、安全性や必要性を含め、責任を持った判断をした上で、立地自治体等に対して、国政を担う責任ある立場の方からしっかりとした説明が行われることを期待していますし、当然そうしていただくものと信じております。
 今後とも、国に対して、原発立地県の協議会や県の重要要望等を通じて、安全性の審査結果や再稼働の判断経緯等について説明責任を果たすよう求めるとともに、エネルギーのベストミックスの早期提示や新エネルギーの導入促進策の拡充などについても国に提案・要望しながら、本県の実情に応じた再生可能エネルギーの導入支援等にも積極的に取り組んでまいりたいと思います。